青井ノボルです。
何を隠そう、ワタシは元奨学生です。
第一種奨学金を借りて、大学4年間を過ごしました。
約10年間返還を続けてきて、あと5年で完済になるようです。
ワタシは元奨学生の立場として、奨学金制度にはとても感謝しています。
大学を卒業した後、ささやかながら幸せに暮らせているからです。
お世話になった奨学金制度がブラックとは、どういうことなのか。
素朴な疑問を抱いた状態で、「ブラック奨学金」を手に取りました。
この記事では、本書を読んだ感想を書いていきます。
奨学金返済が困難になるケースは様々
奨学金が返せなくなる、また保証人に請求がいくパターンは実に様々。
本書では、実際の相談事例をもとに豊富な事例紹介がされています。
というのも、著者の今野氏は若者世代の労働問題解決に取り組むNPO法人の代表。
奨学金に関する相談も広く受け付けているようで、返済困難な相談も多いのでしょう。
本書で取り上げられていた事例は、様々な社会問題を背景としたリアルな話でした。
ワタシは運よく大学卒業して返還を続けていますが、人生には運の要素もあります。
「自己責任」と切り捨てることもできるけど、奨学金問題には他の社会問題が内包されている。
本書を読むことを通じて、そんな当たり前のことに気づかされました。
奨学金は社会福祉であるべきか
奨学金の大部分は貸与型で、ハッキリと言ってしまえば借金です。
貰えるお金ではなくて、原則として返済するコトが求められます。
著者は、諸外国の学費・奨学金制度と比較して、日本は遅れていると指摘します。
次世代の育成を担う高等教育たる大学は、経済的理由で断念すべきではない。
若者に高度な教育を受ける機会を保証することが大切である、と主張します。
給付型奨学金をはじめ、国は若者の教育にもっと予算を配分すべき。
この考え方ついては、子育て中の親として反論の余地がありません。
本当にそうなって欲しいと思います。
大学などの高等教育によって有能な人材が育成され、社会で活躍してもらう。
活躍できる有能な人材が増えることで、社会全体が底上げされ、活性化する。
確かにこうあるべきで、それを実現するのが政治なのだと思います。
大学は高等教育機関だけど、大学生活はモラトリアム期間だと思う
大学は高等教育の一環であり、技能や教養を高めるための機関である。
本書ではこのように表現しています。
今では国内の技能や教養の水準の確保のために、幅広い高等教育が必要とされている。
(中略)教育システムを「エリート教育」から、職業教育に拡大し、これを国が保障するのがトレンドだ。
(引用元:ブラック奨学金P118)
大学は高等教育を提供する場であり、技能や教養を高めるための機関。
厳密に言えばまさにその通りだし、反論の余地はありません。
ただ、少なくともワタシが経験した「大学生活」というのは、高等教育とは違う部分に魅力を感じていました。
人間関係の構築であったり、人生のモラトリアム期間を与えられてやりたいことを思いっきりやるという経験です。
ワタシは大学時代に理系でしたが、理系大学院に進学することなく、文系就職を選択しました。
「企業経営」「中小企業」に興味を持ち、社会人になってから中小企業診断士の資格を取得して、現在に至ります。
社会に出てみると、大学の授業で学んだ知識が意外と役に立つことがあります。
それでも、大学時代に勉強以外で体験したことのほうが、実生活に活きていると感じます。
社会に出て仕事をして、家庭を持って、というリアルな生活に結びついている気がします。
人間関係で上手くいったり失敗したり、山に登ったり、一人で旅に出てみたり。
自分の殻に閉じこもっていたら、絶対に経験しなかったコトだと思います。
これは大学時代のモラトリアム期間だったからこそ、経験できたコトでもあります。
少なくともワタシの場合は、大学生活で人生が拓けたんですよね。
やりたいことをとことんやる、そんな自由な時間をくれた親と奨学金に感謝しています。
と同時に、日本の大学は高等教育の場として機能しているのかと疑問に思うワケです。
そして、高等教育の場として活用しきれない学生に対して、給付型の奨学金はアリなのかナシなのか。
実体験を踏まえて考えてみると、コレといった答えが出ない難しい問題だと感じます。
破産に対する正しい認識が重要です
本書のなかで一番良いなと感じたのは、「返せなくなったときの対処法」における自己破産についての記述です。
ネガティブなイメージで語られることが多い自己破産だが、そもそもの制度の趣旨としては、生活再建を目指すためのものである。
(中略)自己破産を使うメリットは、あまりにも返済残金が多すぎて完済の見込みが全くない場合に、今後の支払いを全てなくすことができる点だ。
(引用元:ブラック奨学金P206)
世間的には「自己破産=人生の終わり」と感じる人も多いかもしれません。
でも実際にはそうではなくて、あくまで人生をリスタートするための制度だと思います。
いろんな事情があって、奨学金が返せなくなるのは、ある意味で仕方のないこと。
それだけで人生を全否定されるものではないし、前向きにリスタートして良いと思います。
合法的に使える制度なので、後ろめたさを感じる必要性は皆無です。
借りたものを返さないのは道徳的には悪かもしれませんが、貸手が負うべきリスクの範疇です。
1回失敗したら、それで人生を棒に振る。
そんな社会であって欲しいとは思えません。
個人的には、破産に対してもっと寛容な世の中になって欲しいと願っています。
奨学金は総じて良心的な借金だと思う
本書では、奨学金制度に対して否定的なスタンスを貫いています。
この点については異論もありますが、ハッキリしていて読みやすかったです。
ところで、本書では貸与型奨学金に関連して次の点を批判しています。
- 延滞10ヵ月目からは元本など全体に年率5%の延滞金が付く
- 民間金融機関がJASSOに年利0.465%で貸して利益を貪っている
まず延滞金ですが、これは極めて良心的な年率設定だと思います。
民間の教育ローンであれば、そもそもの貸付金利が5%近くになります。
例えば、みずほ銀行の教育ローンは固定金利で年4.25%です(2018/6/4時点)。
また、国税や社会保険料の延滞金と比べるとどうでしょう。
国税や社会保険料の延滞金は、年率約9%という水準です(2018/6/4時点)。
また、民間金融機関がJASSO(独立行政法人日本学生支援機構)に年利0.465%で融資しているという点。
これは、超優良大企業向けの優遇金利と同程度で恵まれた水準だと推測されます。
JASSOの信用力が高いからに他なりませんが、金利をかなり抑えているという印象です。
民間金融機関も事業として貸し付けているワケで、不採算の融資は不可能ですよね。
奨学金制度を利用して金融機関が膨大な利益を上げている、という批判は筋違いだと感じました。
むしろ良心的な金利水準であり、金融機関にとって儲けの少ない融資ではないでしょうか。
また、国が予算措置できない部分を民間が補うことには、一定の合理性があるように感じます。
もちろん、国が全面的に学費負担を担ってくれる社会になれば理想的だと思います。
貸与型の奨学金が主流となってしまっている現状は、実に嘆かわしいです。
ただ一般的な借入金と比較した時、金利水準が非常に抑えられているのは事実。
奨学金を食い物にして誰かが暴利を貪っているという構図ではないと考えます。
奨学金を多方面から知るキッカケになる本でした
元奨学生として、奨学金制度のプラス面ばかりに目が向いていたかもしれない。
読み終わった後、これまで認知バイアスに囚われていたのでは、と感じました。
本書を通じて、奨学金の負の部分というか、社会問題との結びつきを学べました。
奨学金に係る数多くのリアルな相談を受けている著者だからこそ書けた本です。
ワタシの考え方と相容れない部分もありますが、読み応えのある本でした。
最後に記されていた「日本の教育費政策を前進させたい」という想いには、大いに共感できます。
3人の子供を抱えているので、教育費の問題にいずれ直面する世代です。
それまでに少しでも教育環境が好転するように、ワタシに何ができるのか。
答えはすぐに見つからないけど、奨学金というフィルターを通じて考えてみたい。
本書を読んだことで、そんなことをぼんやりと考えたのでした。

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